吉見鉄平
ここ10年、日本の高級紳士靴ブランドではある種の地殻変動が起こり、世代交代も一気に進んだ感がある。トレンドセッターの役割や企画・品質の中心軸は従来の大手メーカーではなく、個人やそれに近い単位で活動する新進のアトリエやブランドが見事に奪い取った。規模が小さい分、顧客のより細かな要望に対応できるフレキシビリティの点で、彼らの方が圧倒的に上回っていたからだ。その流れの大きな道筋を整えたのが、今回ご紹介するRENDO(レンド)なのだろう。もはや紳士靴好きなら知らなきゃモグリのこのブランドの「今」と「これから」を、代表の吉見鉄平氏から改めてお伺いしてみた。

想定外に増えたパターンオーダー

「いやー、ここまで変化するなんて、RENDOを立ち上げた当初は正直思い浮かばなかったです」開口一番吉見氏は、相変わらずの人懐っこい笑顔で語り始めた。「まずパターンオーダーの割合が増えているんです」2013年暮れの立ち上げ当初は既製品とパターンオーダーの比で7:3か8:2程度だったものが、今や双方がほぼ同率になっているそうだ。紳士靴需要そのものが正直縮小傾向にある分、それに反比例するかのようにパーソナル化、つまり顧客の一足へのこだわりは逆にアツくなっているのだ。

「『インスタグラムの〇年□月△日の投稿と同じモデルで、色違いをお願い!』みたいな注文も増えています」この例が典型だが、RENDOは自らの身の丈に合わせて上で昨今のネット環境を非常に上手く活用し、新規オーダー獲得に着実に繋げている。しかも月一で「オンラインRENDO」つまりネット会議のシステムを活用した相談会も開催するのを通じ、東京圏以外のユーザーや休日でも来店が難しい顧客にも親身に対応しているのだから、上記のパターンオーダー比率の大幅上昇は、言わば自然・当然。「多少高くなっても頼むならRENDOに、吉見さんに」の必勝「パターン」を、知らず知らずの間に作ってしまっていたのだろう。

RENDO

「自分の靴」を容易に完成できる仕組み

そんなRENDOのパターンオーダーは、結果的に守備範囲も創業時より大分広くなっている。それを改めて纏めてみたい。なお、現状で納期は発注から約4か月だ。

❶木型

目下使用できる木型は以下の5種類。これらをベースに、必要に応じ7種類ものレザーアタッチで微修正を加え、顧客の足により近づけて行く。

①770

2013年暮れの創業当初から使われ続ける、RENDOの基本ラスト。足囲は日本人男性の平均と思われるEガース相当。サイズは5.5~10.0

②845

770をもとに、若い世代に特に顕著な「細足」対応として登場したもので、この木型の登場で従来「RENDOの靴を履きたくても履けなかった層」を一気に救ったとの評が高い。足囲は寸法こそDガースだが、実質的な着用感はCガース相当。サイズは5.0~10.0。

③GB

①②に比べややカジュアル寄りのレースアップモカシンモデル専用の木型。足囲は前半分こそややゆとりのある2Eガース相当だが、かかとはEガース相当に小さくしている。サイズは5.5~10.0

④GB-L

③をレディスバージョンとした上で、女性の足の性質に合わせ細部をリファインさせたもの。足囲はレディスの2E=メンズのEガース相当。サイズは3.5~6.5

⑤270

満を持して登場したローファー専用の木型。履き口を狭くするのを通じかかとの抜けを防いでいるのが特徴で、「このローファーなら大丈夫!」とリピート率が一気に上昇中。足囲はEガース相当で、サイズは5.5~9.5。なお、この木型のみグッドイヤー・ウェルテッドだけでなくマッケイ製法による底付けも可能。

❷基本デザイン

木型により異なり、①②は共通で17種類、③④で4種類、⑤で1種類。多少のアレンジなら1カ所に付き税込み+6600円で対応する。

❸アッパー

以下のゾーン毎に既製品からのアップチャージ率が変化する。他にもコードヴァンや一期一会にしか扱わない革も多くあり、ライニングも税込み+3300円で仏デュプイ社のものにアップグレードできる。

A:20%アップ

国産キップ、英チャールズ・F・ステッド社製スーパーバックスエード

B:30%アップ

仏アノネイ社製ボカルーカーフ・ベガノカーフ・アルパイングレイン、伊コンチェリア800社製ベルーガなど

C:30%アップ+3300円

独ワインハイマー社製ボックスカーフ、仏デュプイ社製サドルカーフ

D:40%アップ

仏アース社製ユタカーフ、伊イルチア社製ホースラディカカーフなど

❹アウトソール

レザーソール、ダイナイトソール、ビブラムソール、リッジウェイソール等の中から選択可能で、価格差は設けていない。

女性顧客の増加で気付けたこと

吉見氏が感じている大きな変化のもう一つは、女性客の大幅増だ。「あくまで浅草の店舗兼アトリエでの話なんですが、ご購入やご注文をいただいた方の半数が女性となる週も珍しくなくなりました」ここ2・3年増加著しいいわゆる「革靴女子」に対応すべく、昨年新たにメニューに加えた「GB-L」木型を用いたシリーズが、RENDOに新たな顧客をもたらしたのは言うまでもない。そしてそれを通じ、吉見氏はこれまで「常識」と思い続けていたことが、必ずしもそうでもないとも気付けたそう。例えばボールジョイント部は男性に比べ女性も決して狭くはないのだそうだ。

「従来言われていたような性差を、正直あまり感じません。これは女性のお客様への接客と採寸と言う『リアルな現場』が多くなったからこそ判った典型例で、もうとにかく眼から鱗なんです」こうして得られたデータをもとに、吉見氏は主力ラストである770と845に、女性の足にも対応できるより小さなサイズを用意することも検討中。ややカジュアルなモカシン系だけではなく、やっぱり男性と同様の黒のキャップトウみたいのが欲しいと言うリクエストも、想像以上に増えているからだ。「それに女性だけでなく、従来対応できていなかった『全体的に小さい足の持ち主の男性』にも朗報になりますから」

個別対応の深化に繋げる、自らの変化

創業時からのこのような変化に対し、吉見氏はどう対応しようとしているのか? 一つ目は既に2年前に実施した、製造元の変更と一元化だ。創業時からの都内の製造元(実は吉見氏のかつての職場でもある)から、GB木型の靴のデビューから付き合いを始めた秋田県のメーカーに製造元を集約させた。納期と品質の安定化のみならず、個別対応への適応力を勘案しての決断である。「技術指導を徹底的に行った効果なのか、個々の靴の細かなニュアンスを理解し、表現しようとする姿勢が、従来の所より明らかに上回って来たからです」

二つ目は個別案件への「方向性の深化」と言えるのかもしれない。アッパーの型紙作製も微調整の詳細決定も製造元に丸投げせず、浅草の店舗兼アトリエで自ら行っているのがRENDOの大きな特徴で、これを無理のない範囲で更に活かそうとしているのだ。具体的には、前述したレザーアタッチによるものだけでなく「型紙の操作による微調整」も将来メニューに加えるかも?とのこと。また、受注会を開催する提携先毎のオリジナルモデルも、今後はもっと増やしたいようだ。なお、RENDOでは完全な新規型紙によるオリジナルデザインの靴の製造も一応可能ではあるものの(オプション代:税込み+2万2000円から)、木型や履く人の足に合わない型紙の作製には応じていない。

浅草の靴作りを、もう一度盛り上げたい

とここまで笑いながら語って頂いた後、吉見氏はふと、しみじみ呟いた。「先程の製造元一本化の話とは全く矛盾するのですが、すぐにでは到底ないもののもう一度ここ、つまり浅草で製造現場を持ちたいって言うのが、RENDOとしての今後の究極の目標なのかもしれませんね」やはりこのコロナ禍で製造現場に直に行けないことで、相当歯がゆい思いをしているのだろうか? 「と言うよりも、自分はこの業界で20年働いて来て、仮に60代後半でリタイヤするとしたら、今が丁度折り返し地点なんです。だからそろそろ、自分を育ててくれた浅草に恩返ししないと…なんて思うようになり始めているのです」

RENDOの店舗兼アトリエは、創業時から多くの職人さんが吉見氏に気軽に会いに来て色々話をする、ある種の「憩いの場」いや正に「繋がる場」になっている。正に吉見氏の人柄のなせる業なのだが、最近はそこで諸先輩方の話を伺うより若手の相談に乗ることのほうが多くなっているそう。「いつの間に自分が、浅草の靴業界をスーパーバイズすると共に、ユーザーとも繋げなくてはならない立場になっていたのだと気付かされています。となると、大変なのは解ってはいるけど、目の前に実際の製造現場がないと説得力がないのかも?な訳です」

筆者(飯野)はRENDOの創業時、浅草の複数の靴関係者(そのうちの一人は何を隠そうRENDOの商売敵の方!)から「是非とも取材に行ってRENDOを広めてくれ!」と頼まれたのを今でもはっきり覚えている。浅草全体が吉見氏に若大将的な期待を寄せていたのだ。彼はブランド名のRENDO=連動らしい任務を各所でしっかり果たした上で、今や「総大将」になる覚悟を持って一足一足の靴作りに臨んでいる!

RENDO

〒111-0032 東京都台東区浅草7-5-5
TEL.03-6802-3825 レンド公式サイト
営業時間:平日 13:00~19:00 土日祝 12:00~18:00 水曜定休

READY MADE:4万9500円~
MADE to ORDER(パターンオーダー):6万1380円~

※この情報は2021年12月現在のものです。最新の情報についてはお問合せ先にご確認ください。

取材・文:飯野 高広