超絶アンティーク仕上げが印象的なナポリ発の艶気靴
NAPOLITANO RACHELE(ナポリターノ・ラケーレ)
※この記事の情報は、2008年1月11日の公開時のものであり、現在では正確とは限らない場合があります。
以前、某ショップのプレスルームで目にしたその靴は、ひと際、オーラを放っているかように思えた。
初めて見る靴だ。だが、フォルムやパターンなどからナポリあたりの靴かと推察してみた。担当者に確認したところ、やはりナポリのハンドソーンウェルテッドシューズだった。しかもクリエイターは紳士靴では少数派である女性なのだという。ブランド名のナポリターノ・ラケーレは、そのまま彼女の名でもあるのだ。
実はラケーレ女史の父親は、かのナポリターノ・パスクアーレ氏なのだ。
ナポリの伝説的靴職人として名高いパスクアーレ氏は1900年初め頃にナポリ近郊でシューメイキングを本格スタート。同氏率いる「カルツォレリア・ナポリターノ」によるハンドメイドシューズは、その芸術性に富んだデザインや高いクオリティなどにより、貴族など多くのVIPらの愛顧を得たという。この天才シュークリエイターには12人の子がいたが、父親の才を最も多く受け継いだのが末っ子のラケーレ女史であったらしい。1960年代の終わり頃からキャリアをスタートさせた彼女は、やがてナポリ最古参のひとつである父の靴工房を継承。現在はデザインや木型の創作を担当する彼女の長男、および数名の職人らとともに、クラシコの伝統をベースに、そこにグラマラスでクラス感に富んだ独創的なハンドメイドシューズを展開しているのだ。
そんなナポリターノ・ラケーレの個性は、写真のストレートチップからも明瞭にうかがえる。
サイドウォールはベーシックなラウンドタイプだが、控えめにポインテッドのシルエットを見せるラウンドトゥとバンプ(トゥと羽根革の間を成すアッパーパーツ)が低くフラットであるため、靴全体は非常に洗練された印象である。また、トゥキャップの切り替えに曲線を取り入れることで個性を主張。内羽根は元来はブリティッシュな意匠であるアデレード・タイプだが、本品ではそれを大ぶりにし、切り替えの曲線をより強調。パーフォレーションなどは廃し、プレーンな表情に見せている。
アッパーには同地の小規模タンナーによってなめされた、品ある光沢の上質カーフを採用。しかも各切り替えに沿ってシャドウを施すというユニークで大変手の込んだグラデーションで、深い味わいとグラマラス感を演出している。この芸術的なカラーリングだけとってみても、ナポリターノ・ラケーレの靴が卓越した技法により、いかに手間暇をかけて作られ、仕上げられているかが理解できるはずだ。ちなみにレザーソールを見れば、そこに刻印されたナポリ湾の風景画に、ナポリという街に対する彼女の深い愛情を感じることもできる。
昨今、さまざまなハンドソーンウェルテッドシューズが登場し、靴好きの間でちょっとしたトレンドになっている。しかも、それらの多くは個性派でもあるのだが、南イタリアのクラシックシューズの伝統の上に立ち、しかし独自の色気を巧みに表現するナポリターノ・ラケーレの靴ほど強烈な存在もないだろう。これで足元を飾れば、たとえシンプルなスーツスタイルであろうとも、グッと洒落度がアップすること請け合いである。しかも、このインパクトの強さに加え、日本に紹介されてまだ日の浅いこともあってレア度も抜群。他人と差をつけたい洒落者にもお薦めでなのある。
NAPOLITANO RACHELE(ナポリターノ・ラケーレ)
アイテム:キャップトゥオックスフォードシューズ
品番:26317
製法:ハンドソーンウェルテッド
アッパー:カーフ
ソール:シングルレザーソール(ヒドゥンチャンネル仕立て、アンティーク仕上げ)
カラー:ブラウン
※2008年1月11日掲載記事
文:山田 純貴 写真:綿屋 修一