フーガシン スペシャルプロジェクト
フーガシン スペシャルプロジェクト
フーガシン スペシャルプロジェクト
フーガシン スペシャルプロジェクト
フーガシン スペシャルプロジェクト
フーガシン スペシャルプロジェクト
 
 
ヨーロッパの一流の革靴に肩を並べる品質でありながら、トレンド追随や技巧強調系の靴、さらにオーソドックスを地で行くモデルも存在するなど、ブランドコンセプトが曖昧だった「FUGASHIN(フウガシン)」。だが、このコロナ禍を経て、日本国内向けの製品はリブランドに舵を切りはじめたようだ。
今回は2021年の12月18日と19日には千葉県の松戸で2回目の受注会も開催した「フウガシン」の新シリーズについてご紹介したい。

 
 
生き残りを賭けて
時代のスタンダードを求めた新シリーズ

 
「フウガシン」は、ホーチミンに設立された日本・ベトナム合弁の靴工場のファクトリーブランドだ。創業時は日本向け、それも大手靴ブランドのOEMが製造の大半を占めていたが、国内の消費者の高い品質意識に鍛えられながら徐々に欧米市場にも展開をはじめ、コロナ禍直前には革靴の本場たるフランスやドイツの著名な百貨店や高級紳士靴店向けにも数多く輸出するまでになっていた。ちなみに日本向けモデルについては、企画や設計はすべて国内で行われている。
 
よって、10万円以上のモデルには、色使いやトウシェイプなどいかにも“ヨーロピアントレンドそのまま” なデザインが多くなっているようだ。しかし、コロナ禍をきっかけに欧米向けが激減となり、「フウガシン」は生き残りを賭けたリニューアルを探らざるを得なくなったわけだ。今回紹介する「スペシャルプロジェクト」と名付けられた新シリーズはその目玉。ブランドとして流行に踊らされるリスクを味わってしまった、これまでの反省から生まれたものなのだ。
 
 
 
靴好きの原点とニーズを追い求めて見えた
新たな地平線は「性差のない革靴」

 
ブランドリニューアルのキーワードは『それでも革靴を履きたい人のための革靴』。これはつまり、従来のようなトレンド重視ではなく、革靴好きが認める作りの良さと流行に関係なく履ける普遍性の高い作品を産み出す方向へ転換することを意味する。特にこの「スペシャルプロジェクト」シリーズは、万人向けではなく敢えて “細足”、つまり足囲がCやBの方をメインターゲットに据えることで、従来の既製品の革靴の盲点だった領域に踏み込んだのだ。
 
 
“細足” の悩みは近年日本で主流になりつつある。そのため木型の設計を気税の木型職人・二本真(ふたもと まこと)氏に新たに依頼した(写真左)。また、土踏まず部をしっかり絞って支えるだけでなく、靴全体としてより高い立体的な表情も実現すべくハイブリッドな底付けを採用した(写真右)。この底付けでは、土踏まずより前はグッドイヤー・ウェルテッド、それより後ろはマッケイ製法を施している。実はこの底付けは前述した合弁工場の得意技であり、以前日本の超有名ブランド向けに半製品のOEMを数多く請け負った際のノウハウを、今回自社向けに応用したものだ。

フーガシン スペシャルプロジェクト
 
“細足” ユーザーへのリサーチの結果、この「スペシャルプロジェクト」シリーズではメンズ・レディスの区別を全く無くした点にも注目したい。これは世界的にも稀、少なくとも日本の革靴では恐らく初めてのケースで、メンズとまったく同じデザインや構造の革靴を好む女性が増えている近年の傾向を踏まえたものだ。その結果サイズも3(日本サイズ21.5相当)から9(同 27.5相当)までとワイドレンジ。因みに足囲がDやE相当の人でもタイトフィットが好みならハーフサイズ上げれば快適に履けるような工夫もこの木型にはなされている。
 
 
 
屈指の技術で実現した細身スタイルは
価格以上の仕上がり

 
フーガシン スペシャルプロジェクト
フーガシン スペシャルプロジェクト
 
「フウガシン スペシャルプロジェクト」の特徴を端的に示すのは、土踏まずのくびれ。既製品でここまで攻め込んだものは、なかなかお目に掛れない。実際、足を入れてみるとその細面な顔立ちとは裏腹に、思ったほどの拘束感は覚えない。確かに履き始めは結構タイトなものの、数回履き込めば良い感じに馴染みそうなのが何となく予想できる。土踏まず周辺のサポート力は特筆すべきで、これは前述のハイブリッドな底付けの効果のみならず、上下の起伏を丁寧に施したインソールの造形にも拠るところが大きそうだ。ヒールも一般的なメンズのものに比べかなり小振りで、高さも約3.2㎝と高めではあるものの特段の違和感はなく、むしろ背筋が自然にスーッと伸びるような感触を得ることができる。木型を設計した二本氏によれば、ファーストサンプルが届いた時点で上記の合弁工場の技術力・表現力の高さに驚愕し、成功を確信したそうだ。
 
靴のデザインは目下レースアップ系5種類。表面的なラグジュアリー化ばかりが進む昨今のインポートブランドの革靴が失ってしまった、極めて正統派でかつクセのないものばかりで、確かにこれなら年齢や性別を超えて愛用しやすいだろう。今後はそのポリシーを変えることなく、徐々にデザインを増やしてゆく予定。また、アッパーもワインハイマーやアノネイ、それにホーウィンなど欧米の一流タンナーのものを厳選しているにも関わらず、価格は仕様オプションなしで税込みアンダー7万円(スキンステッチの意匠が含まれるモデルは8万円+α)を実現している。他店に卸すことなく、受注会でのみ販売と集中生産体制を取っているからこそ可能な金額設定なのだろう。
 
既に昨夏と昨年末に受注会を2回開催しているが、顧客のうち女性が約3割とのことで、中にはご夫婦で揃って注文・購入に至ったケースもあるそう。また、今のところ受注会は本社のある松戸のみで行われているものの他地域、例えば関西圏や中京圏のユーザーからも既に受注会開催のリクエストが多く寄せられているそうだ。この「スペシャルプロジェクト」シリーズも含め、「言われるがままに作る」から脱却し、自ら考え需要を創造する姿勢に漸く転じ始めた「フウガシン」の今後の展開を常に注目しておきたい。

 

フーガシン スペシャルプロジェクト

 
FUGASHIN SPCIAL PROJECT
 
■デザイン:
①内羽根式5穴パンチドキャップトウ ②内羽根式5穴フルブローグ ③ホールカット5穴プレーントウ ④外羽根式5穴プレーントウ ⑤外羽根式3穴エプロンフロント
■アッパー:
ワインハイマー製ボックスカーフ(黒)アノネイ製ベガノカーフ(こげ茶)ホーウィン製ハッチグレイン(黒・茶)など。受注会により変化。今後は黒桟革やワイルドホックスキン(野生の猪の革)などもスポット的に展開予定。
■価格:オプション等で変動。デザインの①~④…税込み6万9300円~、⑤…税込み8万300円~

 

 
ダークスーツやフォーマルウェアの足元に欠かせない、端正な黒の内羽根式パンチドキャップトウ。黒のアッパーはワインハイマーのボックスカーフ。これと同じ仕様で価格は税込み¥69,300
 
ブローギングやメダリオンの割にゴテゴテした印象に見えない、茶の内羽根式フルブローグ。アッパーはホーウィンのハッチグレイン。これと同じ仕様で価格は税込み¥69,300
 
凛々しくもシンプルを極めた外羽根式のプレーントウは、履く場も合わせる服も選ばない。バーガンディのアッパーはアノネイのボカルーカーフだ。これと同じ仕様で価格は税込み¥69,300
 
お問い合わせ:インスタグラムの公式アカウント
@fugashin_special_project

取材・文:飯野 高広