白樫
 
今回、ご紹介する白樫徹哉さんは、おそらく日本で唯ひとりであろうブーツ専門のビスポーク職人です。それもカントリーブーツに特化しているのですから驚きます。
 
1969年、広島県広島市に生まれた白樫さんは、祖父が画家、祖母が藤手芸師範という血筋もあり、手先が器用で、幼少期からモノ作りを好む性格でした。デザイン学校卒業後、制作会社でグラフィックデザイナーとして活躍。その間にファッション好きもあって靴に興味をもつに至り、エドワード グリーンなどさまざまな靴を購入。山口千尋氏率いるギルド・オブ・クラフツにビスポークをオーダーしたこともありました。
 

T.シラカシ ブーツメーカー
オーダールームを兼ねる工房は、神奈川県国道50号座間大和線から横道を少し入った場所に並ぶ郊外型集合住宅の1階に。小さいながらも、きれいに整頓された清潔な空間が心地よい。

 
その頃、管理職に就いて制作現場から遠ざかると、モノ作りができない環境がストレスに。そこで40歳を前に退社を決意し、靴職人を目指して山口氏主宰の靴学校「サルワカフットウェアカレッジ」に入塾。そこで2年間、靴作りの基礎を学び、卒業後、日本人ながら英国仕込みの技術をもち、優れた靴を作ることで名が知られ始めていた靴職人、福田洋平氏に弟子入りするのですが、そこでの経験は白樫さんにとり、驚きの連続だったのです。
 

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若き師匠に深い尊敬の念を抱きつつ、
その技術をストイックに追求し、腕を磨く

 
「師匠の作業は無駄な動きが全くなく、最短の工程で、かつ非常に正確でした。さらに、定規に頼らない作り方にもビックリしました。師匠の加工をあとで測ってみたら、僅かな誤差さえない。心底感動しました」
 
実は、年齢では白樫さんのほうがかなり上。年下の師匠に弟子入りすることに躊躇しなかった白樫さんもさることながら、それを受け入れて「厳しく、ときに優しく指導してくださった」(白樫さん)福田洋平氏の度量の大きさも誠に称賛に値します。そして、そんな師匠の技を自らのものにすべく、昼夜も休日も身を粉にして靴作りに打ち込んだことで体を壊してしまった白樫さんは、苦渋の決断で工房を去るのですが、師匠仕込みの高い技術力が、その後の人生を大いに支えていきます。2011年に東日本大震災の災害復興支援の一環として、故郷の福島で半年間、現地の人を雇って靴作りに取り組むのですが、この時期に最初のビスポークを受注したのです。「それはブーツでした。これがきっかけで『ブーツを追求したい』との思いが強くなり、さらに『カントリーブーツに特化してやってみよう』と考えました」
 

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子供の頃から釣りを趣味にしてきた白樫さんは、この最初の受注以前から、釣りの際、自分にとって理想的なビフォア&アフターシューズがないと感じていたそうです。
 
「わかりやすく言うと『バブアーに合う靴を』という提案です。しかもリアルカントリーを目指しました。ですから自作のブーツを日常履きはもちろん、山歩きや渓流釣りなどでも履いて、想定外の壊れ方、傷み方をしたら、そこを集中的に改善するといったことを何度となく繰り返し、過酷な条件下でも十分な耐久性や機能、履き心地を徹底的に追求したのです」
 

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ミシンを使って製甲作業中の白樫さん。生来、器用であるうえに生真面目で几帳面な性格もあって、白樫さんが作る靴は繊細さも感じられ、カントリーがもつ粗野な印象は皆無だ。

 
 

いたずらにファッションに走らず、
機能靴としてのカントリーを極める

「リアルカントリーなので、デザインや仕様、使われる素材などは必然的に限定されます。お客様には、この点についてぜひご理解いただきたいと思っています」
 
と白樫さん。そう、カントリーブーツはファッションである以上に、元来がアウトドアで履くための機能靴であり、白樫さんはここにコダワリをもっているのです。とはいえ「街履きできればいい」とか「ビジネスで履きたい」という要望も当然あるため、本格仕様の「ヘビーウエイト」をベースにしつつ、「アッパーの革がより薄い」「縫製糸がより細い」「ダブルソールではなくシングルソール」といった仕様変更の軽量メニューも用意。「ヘビーウエイト」から「フライウエイト」まで計5段階から好みを選ぶことができるのです(ただし、これらのメニューが絶対というわけではない)。
 

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椅子に着座し、両足に挟むように靴を固定して行う作業をベンチメイドという。白樫さんが手がける靴はすべからく、この古典的製靴技術で作られる、手縫いのあつらえ靴である。

 
もっとも、基本的仕様は5段階全てに共通。たとえばアッパーは濡れてもシミができにくく、しかも堅牢という条件から、独ペリンガー社にオーダーしたボックスカーフのみを採用。色はカントリーブーツ定番のライトタンとなります。
また、本底には英国の老舗J&F J ベイカー社のオークバークレザーをチョイス。

 

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「他社のオークバークも試しましたが、ここの革は加工しにくいものの、酷使した際に劣化や変形が少なく、最も水に強かったんです。また、底付けに使う麻糸は日本のものを使っています。強度があって質がよいうえ、その品質が安定しているからです」
 
デザインはダービー(外羽根)ベースのキャップトウ・タイプが代表的タイプですが、セミブローグやフルブローグ、Uチップなどに変更が可能。吊り込みではシャフト(筒部)を付け足した木型を用いるため、履き口まわりに無駄なシワが出ず、シャフト全体がしっかりと保形されます。製法はハンドソーンウェルテッドのみ。なお、製作期間は仮縫い付きで、状況によって変動はあるものの、基本的に受注から3カ月~半年後の納品。価格はブーツツリーなどの付属品を含め、44万4960円(税込)~となります。
 

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中底の仕上げ作業を行う白樫さん。作業机の上に、傷や汚れを防ぐための保護シートで覆われた製作途中のブーツが置かれ、その周囲には愛用の道具たちが整然と並んでいる。

 
さて、アウトドアが趣味の人にはもちろんのこと、街履きでも本格カントリーを履きたいという人、他人のものとは違うカントリーをお求めの人、大人っぽい品あるカントリーをお探しの人などにオススメの白樫さん作のブーツ。ビスポークゆえに高価ではあるけれど、そのサンプルを目の当たりにし、白樫さんの誠実な人柄ときめ細やかな仕事ぶりに触れれば、それだけの価値は十分あることがきっと実感できることでしょう。
 

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完成品にはシューズボックス、シューバッグに加え、木目美しいブーツツリーが付属する(いずれも靴の価格に含まれている)。これは木型と同様、個々人の足形をもとに作られるもので、ケヤキ材の削り出しによる3ブロック・タイプ。グリップは、その形状から「ビーバーテイル・ハンドル」と呼ばれている。

 

T.シラカシ ブーツメーカー

 

価格:44万4960円~(税込)
納期:3か月後に仮縫い、6か月後に納品

T.Shirakashi Bootmaker
〒252-0001 神奈川県座間市相模が丘4-6
www.shirakashi.jp
※この情報は2016年3月のものです。最新の情報についてはお問合せ先にご確認ください。