MOYO | 気軽に楽しめ足にも優しいMOYOの革靴
革靴のオーダー、となるとまだまだ「ああ、ここ一番のドレスシューズだよなぁ」的なイメージが付きまといがち。しかし生活環境や就業環境が激変し、少子高齢化も一気に進む今後は、より普段使いやカジュアル的な要素の濃い靴でのオーダーの重要性が増すのは明らか。そんな時代性を何気に先取りした作品を提供するのが、今回ご紹介するMOYO(モヨ)。メインのボートシューズ(デッキシューズ)に昨年からレースアップサンダルを加え、従来のオーダーシューズにはない「いつも履ける」「誰でも履ける」を叶えてくれる。
東海大学ではプロダクトデザインを専攻した有田さんは4年生の時、ヒコ・みづのジュエリーカレッジのシューズマスターコース(3年コース)にも入ったのが、靴業界を知る直接のきっかけとなった。最初の1年はいわゆるWスクール状態で相当苦労したようだが、双方を無事卒業後、婦人靴の老舗「かねまつ」にパターンナーとして入社する。「パターンナーってカッコイイ表現ですが、実際にはデザイナーから来たスケッチを実際に図面に落とすだけでなく、木型の選定や部材の選択・調達、打ち合わせの調整やそれこそ会社のバンの運転まで、もうとにかく何でもやらないといけない(笑)」ただ、それらを通じ靴作り全般の人脈を形成できたのが、今となっては非常に大きな財産になっている。
そんなタイミングで門を叩いたのが、ビスポークの靴職人としてあまりに有名な柳町弘之氏が主宰するトレーニングプログラムだった。「かねまつ」が得意とするレディスのヒールやパンプス以外の靴への思いも湧いてきたからだ。「私以外の受講生の方は、柳町さんと同様に『手縫い』や『ビスポーク』への指向が強かったのですが、私はそれらに固執した訳ではありませんでした。素直に色々な靴をもっと知りたかったって感じです」それを率直に柳町氏に話すと、寧ろ親身に色々と考えてくれたのが有難かったとのこと。独立を経て今日でも交流は続き、MOYOのメイン商品であるボートシューズのアイデアを最初にアドバイスしてくれたのも、柳町氏なのだとか。
実際、注文内容も相当バラエティに富んでいて、素直にカジュアルシューズ的なポップなものをご希望の方だけでなく、仕事用に落ち着いた色味に纏める方も結構いるそうだ。中には黒のエナメルでオーダーし知人の結婚式に履かれた女性も…… もちろんオーダーの要であるフィッティングにも手抜かりはない。近年男性にも増えている細足の方向けの木型も用意されているし、左右別々のサイズでの作成も可能。幅出し等の細かな微調整にも応じてくれる。
また、底面をフランス・RELTEX社製の天然ラバーソール”LACTAE HEVEA”のRANGERSパターンとしたのも、MOYOの人気を支えていると思う。日本のブランドでは採用例をあまり見ないこのソール、単体では結構重いのだが、靴が履く人の足に合っていると嘘みたいにそれを感じさせない。更にはソフトでありながらバネ感に富む無二のクッション性も大きな魅力だ。有田さんがポップアップショップの運営で丸一日履いた際、他社の有名なソールに比べ疲労度が極端に少なかったのが、本格採用に繋がったのだそう。試着してみると、確かに重さが全く気にならないだけでなく、足を自然に前に運んでくれる。その一方で止まりたいポジションでピタッと止まれるのが何とも頼もしく、特に階段や坂道では効果絶大だろう。
昨年デビューしたレースアップサンダルも好評だ。敢えてつま先は露出させていないので、ボトムズで後ろ半分を隠せばパンプスに見えてしまうナイスデザイン! この辺りは「かねまつ」でパターンナーだった頃の経験が活かされている。素足で履いても厚手の靴下を合わせてもOKで、名前こそ出せないもののとある非常にお堅い職務を担当なされている女性も仕事履きとして愛用されているそうだ。また、かかとのストラップの長さを顧客の足の形状に合わせたり、外反母趾の方のためにつま先のアッパー後端部の外周を変化させたりなど、ボートシューズと同様にオーダー時にフィット感の微調整にも応じてくれる。目下レディスのみの展開だが、メンズも構想中とのことでこれは大いに期待だ!
「『お客様の足に合わせて靴を作る』のは、これまでも自分なりにしっかりやって来たつもりです。ただ、そのような場所で一旦改善できた足を『元の悪い状態に戻さないための靴』という発想が、これからはより大切になるのでは」そして有田さんは、将来的にはウォーキングやヨガのインストラクターの資格も取りたいとのこと。例えばビーチヨガの教室をしたり、靴の受注会のサブメニューにそれらを採り入れたりを通じて、生活習慣の改善のためのツールとしての靴の重要性をもっと伝えたいそうだ。「少子高齢化が確実なこれからは治療後のコンディションの維持、そして予防も一層重要になると思っています。身体づくりを通じての靴、そして靴を通じての身体づくりを、MOYOとしてお手伝いしたいですね」
有田さんの名前「朋代」のニックネームから採ったMOYOは、実はスワヒリ語で「心」とか「魂」の意味でもある。それを体現したような、快適だけど決して怠惰ではない履き心地は目下、相模原にあるご家業(世界的なビジネスを展開するメカトロニクス系メーカー)の工場の一角で産み出されている。有田さんご自身もご家業に関わり、タイ担当として年に数回同国に出張をこなす身だ。ただ、ゆくゆくは海を直接感じるエリア、例えば九十九里に独立したアトリエを設けたいとのこと。靴だけでなく、生活そのものを心から楽しめる象徴として、MOYOの靴が今後進む航路への期待は高まるばかりだ。
幼い頃から親しんでいた「海」がデザインの原点
MOYOを運営する有田 朋代(ありた ともよ)さんは初めて会った方でも「この人、絶対海が好きだろうな…」と直感できる、快活な印象の持ち主。お話をお伺いすると、やはり身近に「海」があった。「小さい頃は妙蓮寺に住んでいて、山手にあった祖母の家にしょっちゅう遊びに行って、そこから見える横浜の港が大のお気に入りでした」また親御さんがビーチバレーを積極的に行っていた縁で、湘南エリアの海岸などにも頻繁に訪れていたそう。主催者が用意した砂浜の子供エリアで遊ぶのを楽しむ一方で、試合中の選手の動きを通じ、足の大切さもおぼろげながら感じていたそうだ。東海大学ではプロダクトデザインを専攻した有田さんは4年生の時、ヒコ・みづのジュエリーカレッジのシューズマスターコース(3年コース)にも入ったのが、靴業界を知る直接のきっかけとなった。最初の1年はいわゆるWスクール状態で相当苦労したようだが、双方を無事卒業後、婦人靴の老舗「かねまつ」にパターンナーとして入社する。「パターンナーってカッコイイ表現ですが、実際にはデザイナーから来たスケッチを実際に図面に落とすだけでなく、木型の選定や部材の選択・調達、打ち合わせの調整やそれこそ会社のバンの運転まで、もうとにかく何でもやらないといけない(笑)」ただ、それらを通じ靴作り全般の人脈を形成できたのが、今となっては非常に大きな財産になっている。
そんなタイミングで門を叩いたのが、ビスポークの靴職人としてあまりに有名な柳町弘之氏が主宰するトレーニングプログラムだった。「かねまつ」が得意とするレディスのヒールやパンプス以外の靴への思いも湧いてきたからだ。「私以外の受講生の方は、柳町さんと同様に『手縫い』や『ビスポーク』への指向が強かったのですが、私はそれらに固執した訳ではありませんでした。素直に色々な靴をもっと知りたかったって感じです」それを率直に柳町氏に話すと、寧ろ親身に色々と考えてくれたのが有難かったとのこと。独立を経て今日でも交流は続き、MOYOのメイン商品であるボートシューズのアイデアを最初にアドバイスしてくれたのも、柳町氏なのだとか。
カラフル、そして独特なバネ感が魅力の履き心地
ボートシューズと言う鳩目の少ない軽快なデザインの効果もあるのだろうが、MOYOの靴には「オーダーメード」的な敷居を感じさせないのが大きな魅力だ。「間口を狭くしたくないので、お客様には『革靴とスニーカーの間』とか『革靴入門編』のようにお伝えしています。実際、履き心地だけでなく各パーツで選べる素材や色を楽しんでいただける方が多いですね」甲周り・羽根と履き口・かかと周り・ライニング・コバ・ソールの6か所を数多くの色や素材から選ぶ訳で、確かにこれはレゴのブロックを積み上げる感覚! 革だけでなく倉敷のデニム素材を選べるのもボートシューズの起源を尊重していて、靴好きとしては嬉しくなる。実際、注文内容も相当バラエティに富んでいて、素直にカジュアルシューズ的なポップなものをご希望の方だけでなく、仕事用に落ち着いた色味に纏める方も結構いるそうだ。中には黒のエナメルでオーダーし知人の結婚式に履かれた女性も…… もちろんオーダーの要であるフィッティングにも手抜かりはない。近年男性にも増えている細足の方向けの木型も用意されているし、左右別々のサイズでの作成も可能。幅出し等の細かな微調整にも応じてくれる。
また、底面をフランス・RELTEX社製の天然ラバーソール”LACTAE HEVEA”のRANGERSパターンとしたのも、MOYOの人気を支えていると思う。日本のブランドでは採用例をあまり見ないこのソール、単体では結構重いのだが、靴が履く人の足に合っていると嘘みたいにそれを感じさせない。更にはソフトでありながらバネ感に富む無二のクッション性も大きな魅力だ。有田さんがポップアップショップの運営で丸一日履いた際、他社の有名なソールに比べ疲労度が極端に少なかったのが、本格採用に繋がったのだそう。試着してみると、確かに重さが全く気にならないだけでなく、足を自然に前に運んでくれる。その一方で止まりたいポジションでピタッと止まれるのが何とも頼もしく、特に階段や坂道では効果絶大だろう。
昨年デビューしたレースアップサンダルも好評だ。敢えてつま先は露出させていないので、ボトムズで後ろ半分を隠せばパンプスに見えてしまうナイスデザイン! この辺りは「かねまつ」でパターンナーだった頃の経験が活かされている。素足で履いても厚手の靴下を合わせてもOKで、名前こそ出せないもののとある非常にお堅い職務を担当なされている女性も仕事履きとして愛用されているそうだ。また、かかとのストラップの長さを顧客の足の形状に合わせたり、外反母趾の方のためにつま先のアッパー後端部の外周を変化させたりなど、ボートシューズと同様にオーダー時にフィット感の微調整にも応じてくれる。目下レディスのみの展開だが、メンズも構想中とのことでこれは大いに期待だ!
靴と身体とのより良い関係を求めてどこまでも!
これまでは主に百貨店のポップアップショップ等で顧客を着実に獲得してきたMOYO。その分昨年からのコロナ禍が大きな障害になっているのは事実のようだ。しかし有田さんは逆にそれを大きなチャンスにしようとしている。近年注目の距骨(くるぶしの内側にあり足と脚の動きの支点となる、いわゆる「足首」を形成する骨。筋肉が付着しないのが特徴)ケア系のサロン等との提携による、新たな販路構築などがその典型。リピーターの顧客には外反母趾の持ち主の女性が多く、彼女達へのサポートをより積極的に行いたいとの思いが強くなってきたのも、このような動きに結びついた。「『お客様の足に合わせて靴を作る』のは、これまでも自分なりにしっかりやって来たつもりです。ただ、そのような場所で一旦改善できた足を『元の悪い状態に戻さないための靴』という発想が、これからはより大切になるのでは」そして有田さんは、将来的にはウォーキングやヨガのインストラクターの資格も取りたいとのこと。例えばビーチヨガの教室をしたり、靴の受注会のサブメニューにそれらを採り入れたりを通じて、生活習慣の改善のためのツールとしての靴の重要性をもっと伝えたいそうだ。「少子高齢化が確実なこれからは治療後のコンディションの維持、そして予防も一層重要になると思っています。身体づくりを通じての靴、そして靴を通じての身体づくりを、MOYOとしてお手伝いしたいですね」
有田さんの名前「朋代」のニックネームから採ったMOYOは、実はスワヒリ語で「心」とか「魂」の意味でもある。それを体現したような、快適だけど決して怠惰ではない履き心地は目下、相模原にあるご家業(世界的なビジネスを展開するメカトロニクス系メーカー)の工場の一角で産み出されている。有田さんご自身もご家業に関わり、タイ担当として年に数回同国に出張をこなす身だ。ただ、ゆくゆくは海を直接感じるエリア、例えば九十九里に独立したアトリエを設けたいとのこと。靴だけでなく、生活そのものを心から楽しめる象徴として、MOYOの靴が今後進む航路への期待は高まるばかりだ。
DATA
価格(オーダー内容により変動します)
デッキシューズ(ボートシューズ):5万2800円(税込)~
サンダル:3万5200円(税込)~
サイズ:22~28.5cm
納期:約1か月
お問合せ:インスタグラムアカウント moyo_boatshoes arita.tomoyo@aos-eng.com
※この情報は2021年5月のものです。最新の情報についてはお問合せ先にご確認ください。
取材・文:飯野 高広