J.S.T.F.

東京、浅草の一角。そこに靴職人、橋本公宏さん率いる靴工房「ジャパン・シューズ・テクニカル・ファクトリー(J.S.T.F.)」はあります。28歳で靴職人を志し、関信義さんのもとで腕を磨いた橋本さんが、自らの工房を開いたのは10年前のこと。以来、デザイナーなどから受注し、数多くの既製靴を生産してきました。同工房が他の既製靴メーカーとひと味もふた味も違うのは、商品開発に積極的に参加する姿勢を貫いているという点です。単に裏方としてではなく、作り手の立場から提案もすることで、取引先にもユーザーにもより大きな満足を与え、ひいては、それが自らのビジネスの幅を広げる結果になるとの信念があるのです。

 

とはいえ、決して頑なに自己主張することはなく、基本的な姿勢は顧客本位であって、手のうちはいろいろあるものの(たとえば製法はハンドソーンウェルテッド、九分仕立て、グッドイヤー、ノルウィージャン、マッケイ、オパンケなど多彩!)、そうしたテクニックも、あくまで顧客が求めるものに最大限に応えようとする良心と職人魂によって培われたものなのです。
 
ちなみに橋本さんの靴作りは「あくまでベーシックに」であり、「靴は歩くための道具」との哲学に裏打ちされたもの。基本を見据え、それを貫き、高めていくことで、履きやすく、実用的で、しかもデザイン、フォルム、素材が絶妙に調和して三位一体となった美しい靴が出来上がるわけなのです。
 

橋本公宏橋本公宏(はしもと きみひろ)さんは1971年、東京羽田生まれ。水道工事、トラック運転手、カラオケ店店長などを経た後、関信義氏に師事。2005年に工房を開いた。

 

J.S.T.F.

工房1階では橋本さんを核に、職人らが吊り込みや底付けなどの作業に取り組んでいる。ちなみに同工房は現在、橋本さんのほか、計8名のスタッフで運営されている。

 
 
パターンオーダーながら格調高い佇まい
 
主に既製靴を手掛ける「J.S.T.F.」ですが、実は工房を訪れる極限られた人のみにパターンオーダーも行ってきました。が、「これまでに育んできた技術の集大成として、また、今後のいっそうのスキルアップのため」、今秋からパターンオーダーをより積極的に展開することに。
 
木型については自社の有り型を使い、必要に応じ、それらに肉盛りをするなどして調整します。アッパーのデザインは多種多彩、その革は橋本さん自らが厳選した国内・外のトップグレードを使用(発注者が用意した革も、可能な状態であれば使用できるとか)。また、ソールはレザーのみならず、各種ゴム底材も用意されています。なお、完成は発注から半年以内。必要に応じ、仮縫いを行うこともあるそうです。

 

さて、ここで一例としてクォーターブローグオックス(写真参照)を見てみましょう。一見して英国調のベーシックな靴なのですが、実は両サイドにエラスティックが加えられているので、脱ぎ履きが容易です。上から見ますと、端正でほっそりとしたシルエットなのですが、ひっくり返してみると思いのほか甲幅があり、ウエストは絞りすぎず、ヒールリフトも小さすぎない印象。これなら足全体でしっかり接地でき、歩行も安定したものになるはずです。
 
また、ソールは7mm厚が一般的なのに対し、これは8mm強。とはいえ、決して野暮ったく見えない、この塩梅がなかなかに絶妙で、しかも屈曲性を犠牲にすることなく、歩行時の衝撃も確実に吸収してくれるメリットが! 橋本さんの長年の経験が、見た目の品の良さと歩き心地をみごとに両立させた例といえるでしょう。
 
さらに、コバに施された目付けにも注目を。橋本さんらが熱ゴテを使って手技で1本1本を刻みつけた、このギザ飾り。ピッチに破綻はなく、そこに施された出し縫いと乱れなく呼応し合って、この靴の格をいっそう際立たせています。
 

クォーターブローグオックス

ソールの一例。出し縫い糸を隠すヒドゥンチャネル仕立て&バイカラーの半カラス仕上げに加え、ウエストに鋭角的な肉盛りを施し、シャープな表情にするフィドル仕立ても!

クォーターブローグオックス

クォーターブローグオックス(トウにメダリオンがないブローグ入り内羽根式短靴)に、脱ぎ履きの機会が多い日本のビジネスマンに向け、サイドエラスティックを加えた実用モデル。顧客の発案に応じて作り上げた自信作の一つ。

クォーターブローグオックス

丸みに富むヒールカップがかかとを確実にくるみ、かかと抜けを防ぐ。かつ、履き口付近の曲線を緩やかにすることでアキレス腱へのアタリを軽減。また、その曲線に“共鳴”するかのようにヒールリフトがカーブフレアを描く。履き心地と“美”のみごとな調和である。

 

橋本公宏

弟子を指導する橋本さん。そのスタイルは厳しくも、その奥底に暖かさと優しさが感じられる。「チームを強固にしたい」「若手に道をつけてやりたい」との思いに揺らぎはない。そんな橋本さんの気持ちに応ようとスタッフは皆、日々切磋琢磨している。

 

機械縫いによる既製靴もいいのですが、「それよりもうちょっといい手作りの靴の素晴らしさを知ってもらえれば」というのが橋本さんの願いとか。用意されたデザインはいずれも流行りに左右されないベーシックなものなので、入門者にも積極的にお薦めできるのが「J.S.T.F.」のオーダー靴です。
 
たしかに細かいデザインに徹底的にこだわるならビスポークということになるでしょうけれど、そうではなく、履き心地&歩き心地という靴の原点に立ち返るならば、橋本さんの1足は間違いのない選択です。しかも、思わず目を奪われるほどの素晴らしい出来栄えでありながら、コストパフォーマンスは抜群。靴通にこそ、ぜひ知っていただきたい注目のブランドといえましょう。

 

橋本公宏

パターンの製作、革の裁断、製甲(アッパーの縫合)などの作業が行われている工房2階の様子。この隣室には製甲用のミシンが設置され、革などの部材もストックされている。

橋本公宏

デザインに則し、製作される各パターンは橋本さんのチェックを経て、細部まで繰り返し、念入りに調整される。ちなみにパターンオーダーでは約20パターンを用意。

 
◆基本価格:150,000円~
◆オプション
◯アッパーの色
・ブラック:アップチャージ無し
・ダークブラウン:+3,000円
・ライトブラウン:+3,000円

※使用革は橋本氏がその時に手に入る中から最良の革を厳選。革の銘柄、等級の指定はできません。
※インナーの色はご指定いただけません。ナチュラルで統一させていただきます。
※底付は基本的にハンドソーンウエルトの9分作りです。

◯ソール
・全カラス:+1,500円
・半カラス:+1,500円
・ハーフミッド:+3,000円
・フィドルウエスト:+5,000円
・伏せ縫い:+1,500円
・全面ラバー張:+3,000円
・ピッチドヒール:+1,500円

※上記価格は全て税抜き表記です。

 

ジャパン・シューズ・テクニカル・ファクトリー(J.S.T.F.)
〒111-0022 東京都台東区清川1-27-6
TEL.03-6802-4305
※この情報は2015年8月のものです。最新の情報についてはお問合せ先にご確認ください。