Tricker’s | 満を持して登場したノーザンプトンの老舗、トリッカーズ青山店
常に新しさが求められるファッションの世界において、昔から変わらぬ伝統的なスタイルでありながら、世界中のファッショニスタを魅了し続けるブランドがあります。そのブランドとは、現存する英国ノーザンプトン最古のシューメーカーであるトリッカーズです。
同ブランドの直営店が、ロンドンのジャーミンストリートにオープンしたのが1937年。なんと82年ぶりに2店舗目のオンリーショップが、4月25日、東京・青山の骨董通りにオープンしました。オープンにあわせて、トリッカーズの6代目社長マーティン・メイソン氏が来日中とあって、多忙な業務の合間にお話をうかがいました。
BOQ:トリッカーズは1829年にジョセフ・トリッカーズ氏が創業して、今年で創業190年を迎えました。長い歴史を持つ英国ブランドの経営者として、改めて考えられたことはなんでしょう?
マーティン・メイソン氏(以下MM):私はこれまでジョンスメドレーやプリングル、マルベリーなど英国ラグジュアリーブランドのディレクターを経験し、トリッカーズの社長に就任しました。また、創業家以外から社長に就任したのは私が初めてです。190年の間に世界は大きく変わり、消費者の嗜好も変化しています。その変化に対応するのはとても大切です。それと同時に、長い歴史に培われたトリッカーズの伝統を守り、さらに発展させていきたいと考えています。
BOQ:なるほど。多くのモデルは長年変わらない伝統的スタイルを維持していますね。昨今、歴史あるブランドであっても、若い世代の歓心を得るために、モダンなエッセンスを取り入れています。トリッカーズが同じスタイルにこだわる理由を教えてください。
MM:パーフェクトで変える必要がないからです。1920年代から同じスタイルの靴を作り続けていますが、現代においてもなお、そのスタイルは古びることがありません。当時から変わらぬ製法で作られた靴は、若い世代の顧客からも大変満足をいただいています。
BOQ:確かにトリッカーズは世代を問わず人気があります。代表モデル「カントリー・ブーツ」をはじめ、トリッカーズには人気モデルが多いですが、個人的に気に入っているのはどのモデルですか?
MM:一番むずかしい質問です。「自分の子供達の中で誰が一番可愛いか」と、聞かれているようなものですから(笑)。もちろん、どの靴も気に入っていますが、いま履いているのはストウです。また、アッパーにクードゥー(アフリカに生息するウシ科の動物)の革を使ったものも最近のお気に入りです。
BOQ:ところで、チャールズ皇太子はトリッカーズを愛用されていますが、どんな靴を履かれているのですか?
MM:トリッカーズがチャールズ皇太子の御用達であることはよく知られていますが、きっかけは、トリッカーズの顧客であった故ダイアナ皇太子妃が、トリッカーズのスリッパを皇太子に薦めたところ、いたく気に入られ、やがてロイヤルワラントを授かることとなりました。実はダイアナ妃の生家スペンサー伯爵家の本宅は、ノーザンプトンから北西8キロのオルソープにあり、彼女の父や兄弟も代々トリッカーズの顧客なのです。
チャールズ皇太子はスリッパのほか、カントリー・ブーツやドレスシューズを愛用されています。また、ブローグシューズが多く、すべてビスポークです。
BOQ:従来はフォーマルなビジネススーツの着用が求められてきた金融業界でさえ、スーツやタイの着用が任意になる会社もでてきたと聞きます。ロンドンのシティでも、「黒のストレートチップ」が「スニーカー」に取って替わられる時代も、そう遠くないかもしれません。伝統的な紳士靴の未来をどう見ていますか?
MM:グッドイヤーウェルト製法によるトリッカーズの靴は、ソールが減ったら交換でき、手入れを怠らなければ10年以上履き続けることができます。今後のビジネスの発展には、資源や環境の保全が必要不可欠であり、これからおとずれるサスティナブルな社会(環境、社会、経済のバランスを取りながら発展する社会)でこそ、伝統的な紳士靴が必要とされ、大きなビジネスチャンスがあると思います。
名だたる英国ラグジュアリーブランドを任されてきた人物だけに、変革に挑むチャレンジャータイプを想像していましたが、実際のマーティン・メイソン氏は、情熱的でありながらも伝統を重んじる紳士然とした好人物。伝統こそが新たな可能性を生み出す、そんなシンプルなことこそ大切だとあらためて気づかされました。
トリッカーズ青山店
東京都港区南青山5-4-27
TEL.03-6805-1930
営業時間:11:00~20:00
定休日:無休
※この情報は2019年5月のものです。最新の情報についてはお問合せ先にご確認ください。
ロケ写真:桑田 望美