マニュファクチャーズのアイコンモデルであるドレスチロリアン「H.murata」のオーダーサンプル。これと同スペックでオーダーした場合の価格は、デザインベース8万7000円+表鳩目1000円+目付オプション1万円=9万8000円+税で、総額10万7800円となる。
世界長ユニオンは1919年に創業した世界長と、1952年創業のユニオン・ロイヤルの合併によって2010年に設立された、日本におけるシューズメーカーの代表的存在です。ユニオン・ロイヤル時代から展開されてきたマレリーや、トレーディングポストとのコラボによるジャパンメイドのソフィス・アンド・ソリッドなど多彩なオリジナルブランドを擁していますが、とりわけハンドソーンウェルテッド製法で展開されるユニオンインペリアルは靴通たちからの熱心な支持を得ています。
ここにご紹介するブランド、マニュファクチャーズは、その世界長ユニオンが2020年秋に立ち上げた新ブランドです。ユニオン・ロイヤル時代の1960年に伊・マレリー社と技術提携したことでマッケイ製法の技術を磨き、’70年代にはイタリアの国際製靴技術コンクールで最高賞を受賞するなどの実績を誇ってきた熟練職人らが引退を迎えるにおよび、現役の職人たち(平均年齢40歳前後の約10名)が技術継承を重要な課題ととらえ、自発的に始めたのが、このブランドなのだそうです。技術開発課の長谷川信一さんによれば、
「いわば職人発信のブランドです。彼らが商品開発に大きく関与し、みずからの技術で生産するというもので、この姿勢の表れとして、各モデルにかかわった技術者の名前を品番にしています」
とのこと。また、「手仕事と機械作業のマッチング」をコンセプトとしつつ、現在、展開しているパターンオーダーにおいては、往々にして外注に頼りがちとなる製甲作業や底加工も含め、全てを鎌ヶ谷市にある同社の千葉工場が生産を手がけているのも大きな特徴です。 ※今後、新たに導入予定のレディメイドでは工程の一部が外部の製作になる予定。
「ドレスシューズという枠組みにはとらわれず、多様なカテゴリーで展開していこうと思っています。現状ではグッドイヤーウェルト製法によるパターンオーダーの展開となっていますが、販売方法も含めて統一せず、柔軟なブランドを目指しています」

代表作ドレスチロリアンはビジカジの足元に“ちょうどいい”

目付
ウェルトに施される目付は本サイトからの発案により、新たに採用されたオプションとなる(オプション料は税込み1万1000円)。写真は、ドレスチロリアン「H.murata」のサンプルにおける目付&アウトステッチの実例。
現在、マニュファクチャーズはパターンオーダーにより受注生産される計8モデルがラインナップされていますが、ここではブランドのアイコニックなモデルであり、きれいめカジュアルからいまどきのビジネススタイルまで、さまざまなスタイルにマッチするドレスチロリアン「H.murata」のオーダーサンプル(トップ写真)を例にとりつつ、この新進ブランドについて深掘りしてみます。
モカ縫い
ヴァンプとも呼ばれる枠革に、モカ革の端が被さるように縫い付けられて出来上がるモカはヘビモカ、ヘビーモカなどと呼ばれ、チロリアンシューズの特徴的なティテールとなる。このドレスチロリアンでは職人が2本針を用いた伝統的な手縫いで、これを巧みに施している。
ハトメ
アルプス山地の牧童らが履く民族靴に端を発するチロリアンシューズをドレッシーにアレンジした、このユニークなモデルは、靴職人の村田さんが所有していたチロリアンシューズをもとに「登山靴的なものとドレスの融合を狙い」(前出・長谷川さん)企画・デザインしたもの。チロリアンシューズの象徴ともいえるモカの手縫いはピッチが整って美しく、テンションも強く、しかも味わいがあります。また、放射状に施された彫りがユニークな真鍮鳩目は珍しいもので、これもまた、ささやかなアイコンとなっています。ちなみにライニングは、このモデルに限らず、全モデルに仏・デュプイ社の革(全5色から選択可)が使用されます。
ソール
ドレスチロリアンの、このサンプルでは、シングルソールに伊・CMC社の革を、トップリフトに伊・ビブラム社のラバーパーツを使用。ウエスト部分は角コバ仕上げで、ヒールリフトはよりドレッシーに見せるピッチドヒールになっている。
踵
このサンプルでは、ラウンドトウの木型「MR-1」を採用。ヒールカップは日本人の足形に適うべく小ぶりなものとし、踵(かかと)を包み込むように成型することで踵浮きを回避させている。また、通常はヒールカップの中心部に設けられる切り替えをインサイドに移すことで、後方からの見栄えをよりエレガントなものにもした。
オーダーに際しては、以上の基本的なディテールをもとに、サイズ、木型(甲高の場合、アップチャージの調整あり)、アッパーの革・カラー、底材と、その仕上げなどを選び、さらにアップチャージにより、穴飾り、レザーソールの半カラス仕上げ、ヴィンテージスチールなどのトウスチール、アウトソールのハーフラバー加工、シューツリー(ブナ材使用。税込みi1万6500円)などが追加オーダーできるシステムになっています。

超レアな伊・クロエ社製エンボスコードバンも選べる!

ところで、このドレスチロリアンのサンプルに使われているアッパーの素材は何かといいますと、これはフランスの名門アノネイ社の名革であるエンボスカーフの「アルパイン」。カラーはタンとなります。マニュファクチャーズのパターンオーダーでは、取り寄せなどで多彩なアッパー素材の選択が可能で、代表的なものでは、この「アルパイン」のほか、同じアノネイ社製エンボスレザーでは「アルカザール」や「ラスティグレイン」もあり、スムースカーフでは伊・イルチアの「ベティス」、スエードなら英・C.Fステッドの「ジャヌス(ヤヌス)」などがストックされています。また、珍しいところでは蝦夷鹿の革も選べるとのことです。

さらに稀少な素材として、エンボス加工されたコードバンも! これは、世界随一の革の生産地イタリア中部トスカーナ州の古都ピサの近郊ポンテ・ア・エゴラにある馬革専業のタンナー、クロエ社(CLOE LEATHER)の製品革。近年、世界的にコードバンの需要が高まっており、それを受け、イタリアからコミペル、ロカド、ノヴァペルといった会社がコードバンの生産に次々と参入していますが、クロエもそうしたうちの1社なのです。現状、極めてレアな革であるため、履き込んでいくことでどのような表情にエイジングしていくのかはわかりませんが、その分、“育てる”楽しみが増す素材といえましょう。ちなみに、この革でオーダーした場合、税込み8万8000円のアップチャージとなります。また、レザーソールの素材についてもよりこだわりたくば、アップチャージで英・J&F J.バーカー社や独・レンデンバッハのオークバークにすることが可能です。
このように新参ブランドとはいえ、長きにわたって千葉工場にて培ってきた技術力を駆使し、職人たちが強い意思と前向きな姿勢をもって生産するリアル・ジャパン・メイドのマニュファクチャーズ。知名度はまだまだこれからですが、潜在能力は十分以上で、その将来性には大いに期待できるものがあります。そして、この点も含め、今、先取りでオーダーすることが、そのまま彼ら職人たちへの支援にもなると思うのです。
Manufacturers H.Ogata
「H.ogata」は6アイレットと、その左右に施されたスワンネックステッチが小粋なクォーターブローグオックスフォード。もちろん、このモデルでも好みの仕様でパターンオーダーが可能だが、写真のサンプルでは木型にスクエアトウの「MS-1」を、アッパーにアノネイの角シボエンボスレザー「アルカザール」を、本底にCMCの革を使用している。このスペックでオーダーした場合の価格は8万2000円+税で計9万200円。これに目付けオプション(1万円+税)を足すと計10万1200円となる。
Manufacturers H.Murabayashi
シングルモンクの「H.murabayashi」。パターンオーダー対応品だが、写真のサンプルでは、丸みに富むフォルムと控えめポインテッドのラウンドトウが特徴の木型「MR-2」を使い、本底にビブラム社製「ガンマソール」×CMC社製レザーのコンビソールとし、そのつま先にヴィンテージスチールを打ち込んだ。ゾンタ社製カーフ「オールドイングランド」の繊細な風合いも美しい。このスペックでオーダーした場合の価格は、デザインベース8万5000円+ガンマソール4000円+ヴィンテージスチール4000円+目付オプション1万円=10万3000円+税で、総額11万3300円となる。
Manufacturers(マニュファクチャーズ)
お問合せ:世界長ユニオン千葉工場 TEL.047-446-9961
secaicho-union.jp www.union-royal.com

文:山田 純貴