T. SHIRAKASHI BOOTMAKER

 
英国スタイルのカントリーブーツに特化したビスポークを製作する靴職人、白樫徹哉さん。そのコダワリとハウススタイルは唯一無比であり、卓越した技術力や品質に対する完璧主義も相まって、英国靴党をはじめとする靴通たちから高い支持を得ています。
 
ところで昨年(2020年)3月、白樫さん主宰のアトリエ兼オーダーショップ「T. SHIRAKASHI BOOTMAKER」が神奈川県相模原市から横浜市に移転しました。場所は山下公園にほど近く、歴史的な建物が多く残るエリア。「小学校の遠足や家族でこのあたりを訪れていて、横浜の華やかさや異国情緒も懐かしく、店を出すなら横浜にとの思いがありました」と、白樫さんは語ります。ちなみに、同じビルには靴修理の「ユニオンワークス」やスーツビスポークの「テーラーグランド」も入居しています。
 
 
メイド・トゥ・オーダーならネットで注文も可能
 
過去10年間、ブーツのビスポーク一筋で努めてきた白樫さんですが、昨年12月、満を持してのメイド・トゥ・オーダー(以下、MTOと記載)を立ち上げました。これはオーダー後に製作されるものの、パターン(デザイン)やディテールはあらかじめ決められており、素材の選択肢もある程度に限定的で、木型は在り型を使用。製法(底付け法)は、すくい縫いは手縫い、出し縫いがマシンの、いわゆる九分仕立て(現在、フルハンドのバージョンも検討中)となるオーダーメイドシステムです。アトリエかトランクショーでサイズを確認するか、オフィシャルサイト(URLは下記参照)のサイズ表でサイズを決めた後にオーダー。仮縫いはなく、納期はオーダーから約3ヵ月後(変動あり)となります。
 
「これからもビスポークがメインなのは変わりませんが、こうして製品化することで、自分が理想とする靴の形をマスターピースにできればとの思いがあって、それでMTOを始める決心をしました」と白樫さん。が、MTOのラインナップを見れば、なんと全4モデルがいずれも短靴!(2021年3月10日現在)。ビスポークはブーツのみなので、とても意外です。これについて白樫さんは「『短靴も』とのお客様のご要望をいただく機会が増えたことと、靴屋なのに短靴がないのもちょっと偏っているので、そこを補おうとの理由からです」と説明してくれました。なお、今後はMTOにブーツも加えていく予定だそうです。
 
 
テーマは「街で違和感なく履けるカントリー」
 

T. SHIRAKASHI BOOTMAKER

 

T. SHIRAKASHI BOOTMAKER

ドレッシーなバルモラル(内羽根式)のデザインながら、小ぶりの外鳩目(シューレースを通す小穴が、その表と裏の両面から金属リングで補強された仕様のこと)にすることで、控えめにカントリーテイストを主張している。

ここで、MTOの代表的モデルであるフルブローグ「ヘリンボーン(HERRINGBONE)」を見てみましょう。白樫さんによると、MTOの各モデル名は生地や柄をテーマにしており、このモデルでは「フルブローグは特にカントリー色の強いデザインなので、同じくカントリーを連想させるツイードの伝統柄の名称をモデル名にしました」とのことです。
 
写真のサンプルでは、日本ではあまり馴染みがないワックスドカーフをアッパーに使い、よりカントリーテイストを強調。「これはハンティングブーツやライディングブーツ、アーミーブーツなどに使われてきた英国の老舗タンナー、J&F. Jベイカー社の革です。MTOは『都会でも違和感なく履けるカントリー』をテーマにしているので、ドレッシーなオックスフォードシューズではありますが、あえてハンティングブーツと同じ革を使ってみました」(白樫さん)。
 
木型もショートノーズで、トウシェイプが大きめであるなどカントリーのエッセンスをベースに。とはいえ、ウィズはEながらも可能な限り細めに見せることで野暮ったさを回避しており、ヒールカップも日本人向けに小ぶりなものにしています。
 

T. SHIRAKASHI BOOTMAKER

メダリオンの各小穴は真円が保たれ、乱れなく美しい。また、ウエルト(コバ)は目付のない、シンプルな表情に留めて、ややカジュアルな雰囲気に。ちなみに、出し縫いではミシンが使われている。
 

T. SHIRAKASHI BOOTMAKER

カントリーブーツではダブルソールで作られる場合もあるが、「ヘリンボーン」はシングルソール。MTOでは、本底にイタリア製などの革を使用するが、アップチャージ(税込み8800円)で英・J&F. Jベイカー社のオークバークにすることもできる。
 
ちなみに、ソールはシングルレザーソールとなり、インソールには国産の革が使われるそうです。カラーは写真のブラウンのほかにブラックもご用意。また、嬉しいことにオリジナルの木製シューツリーが付属するうえ、3ピース(トップ写真参照)かヒンジ式(折りたたみ式)のいずれかが選択できます。価格は25万3000円(税込み)。これはアッパーをワックスドカーフにした場合で、ボックスカーフやグレインレザー、スエードなどで製作した場合は各22万円前後(税込み)となります。
 
白樫さんの短靴モデルは、この「ヘリンボーン」を含むいずれもが典型的な英国ドレスシューズに見えます。が、子細に見れば各所にカントリーブーツのエッセンスが見て取れ、それらがエレガンスなたたずまいの中に無骨さを添加し、靴全体の印象をよりラギッドなものにしています。そして、これこそが「白樫スタイル」と呼ぶ、唯一無比の個性を成しているのです。
 
なお、本サイトでは2016年(旧BOQ)に、白樫さんの靴職人としての歩みや靴づくりについて紹介しています。ビスポークの概要などについては、その記事をご参照ください。

 
 
T. SHIRAKASHI BOOTMAKER
神奈川県横浜市中区山下町25-2 インペリアルビル504A
e-mail:sales@shirakashi.jp
https://shirakashi.jp/
営業時間:10~17時
定休日:日曜

 

文:山田 純貴